プラネット・ナース

コミックマーケット84のICECAT同人誌に寄稿した内容を、発行者の許可を得て掲載しています。

作者:ゆんぞ 
更新:2013-07-28

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邪教の儀式に掛けられた結果、熱や光で巨大化する能力を得たエリザ=トーランド。塔より高い視点や有り得ない力に戸惑いつつも、治癒術師のエリザは膨大な魔力で遍く民衆の治療にあたり、その名は今や全島に知れ渡っている。

そして妖精が迷い込んだ一件を機に、彼女は異世界との心話や移転の術を得た。微かに聞こえる嘆願を頼りに移転術で飛び、癒し手の務めを全うして戻る。異世界の経過に関わらず飛ぶ直前の時刻に戻れるため、現世と平行して治療することができた。

移転先の多くは現世より文明が進んでいる一方、縮尺は小さいことが多かった。指ほどもない摩天楼が街のあちこちに聳え、張り巡らされた道を色とりどりの車が走る。特に最初の移転では、彼女が目にするもの全てが初見だった。住民の側も文字通り雲を突き抜ける巨人の出現で混乱していたため、しばらく互いに何も言えず呆然と突っ立っていた。

我に返ったエリザは害意の無いことを説明して治療にあたるものの、トラブルも幾つかあった。手を伸ばすと怯える、軍隊や警官に撃たれるくらいなら想定内だが、縮尺の割に強い火力のため更に巨大化し、余計な混乱を招くこともあった。また、目の前を漂う虫らしき物体を捕まえると実は乗り物で、
「どうして、そんな危ないものに乗っているんですか!」
と思わず叫ぶ場面もあった。以降、エリザは空中にも気を遣っている。

そんな日々に翻弄されつつも新鮮な驚きを楽しんでいた、ある新月の夜。異世界からの嘆願を聞いたエリザは軽く溜息をつきつつ手を組み、普段より声が細く多い点に疑問を感じつつも移転術を行使する。声への集中が高まるにつれて意識が薄くなり、やがて眠るように途絶えた。


目覚めたエリザは、何とも奇妙な世界に飛ばされていた。
闇夜だというのに太陽が浮かび、眩しいほどに輝いている。照らされた頬は焼けるように熱い反面、背中は氷のように冷たい。更には宙に浮いているのか、上下の感覚もない。

移転術に失敗したのだろうか。あの妖精が言っていた虚無の世界、あるいは世界の狭間なのだろうか。そんなことを考えつつ周囲を更に観察するエリザは、手前で青白く光る小さな三日月に気づいた。
「えっと、これは……?」
エリザはつぶやきつつ、顔を近づける。よく見れば球状の石が陽光を反射して三日月状に光っているようだ。大きさは胡桃ほどで、魔術で光を灯すと玉の表面に青と緑と白が織りなす複雑な模様が浮かび上がる。
「綺麗……」
思わず感嘆の声が漏れ、見とれてしまいそうになる。

惑星住民もまた、エリザを呆然と見上げていた。夜だった地域は瞬く間に昼となり、彼女の帽子から肩くらいまでが文字通り空を覆い尽くしている。平時なら現実として受け入れることさえ困難な状況だが、絶望に支配された彼らは違った。女神の来訪と感じた彼らは一斉に救いを求め、天に祈る。

その声が女神に届いたことは表情の変化で分かった。驚いたように目を見開き、真剣な眼差しで見つめる。ややあって彼女の顔は柔らかい微笑みに転じ、そして彼らの心に言葉が響く。
「ええ、お助けします。まずは話を聞かせて下さい」
その言葉が理解されるにつれ、どこからともなく沸き上がった歓喜の声は惑星全域にまで広がってゆく。エリザはその数に驚きつつも、慈愛に満ちた微笑で応じた。


彼等が強く助けを求めたのは、巨大隕石が接近しており、墜落による世界の終末が予測されたためだった。だから巨大すぎるエリザを見て怯えるどころか、女神の降臨と解釈したのだという。
「女神だなんて、またそんな大げさな」
顔を赤らめ、はにかみつつ応えるエリザ。恥ずかしがりつつも喜んでいるのが丸わかりで、惑星住民もつい笑ってしまう。
「あまり笑わないでください」
笑顔を崩すことなく軽く窘め、簡単に自己紹介する。
「私はエリザ=トーランド。女神ではなくて、癒し手なんです。ですが折角なので、まずは皆さんを治療しますね」
そう宣言したエリザは両掌を惑星の裏側に回し、触れないように注意しつつ胸元に引き寄せる。そして目を閉じ、まだ見ぬ住民たちの声に心を傾け平穏を祈る。

惑星住民が見上げる空は全てエリザの手袋と、盛り上がったエプロンに転じた。太陽も月も星もなく、それでいて空全体が薄明るい光を湛えている。気づけば病気や怪我の全てが何事もなかったかのように治り、絶望に蝕まれていた心身にも力が漲る。

惑星住民に元気が戻ってきたのを感じ取ったエリザは瞼を開き、豊かな胸元にブローチのように収まった惑星を見下ろす。白く細い筋は雲、緑と青はそれぞれ陸地と海。人の姿はもちろん人工物の一切が確認できず、辛うじて灰色の部分が都市に見えるくらいだ。世界を丸ごと抱き締めるまで大きくなったのは流石に初めてだが、どれだけ大きくなっても彼女の願いは一つだ。
「安心して下さいね。どれだけ大きくなっても、私は治癒術師です。必ず貴方達を護ります」
自然といつもの言葉が出る。それに応じた歓喜の声も、惑星全体から沸き上がった。


証言を元にエリザはしばらく隕石を探してみるものの、暗闇の中に無数の星が輝いているため、目視ではどうにもならない。手で払ってみても何かが当たった感触は無いが、それは隕石がエリザにとって小さすぎたのか、隕石が近くに無かったのかは分からない。

申し訳なさそうに説明するエリザの声を受け、再び絶望が惑星を覆う。隕石落下は、世界の滅亡は避けられないのだろうか。女神をもってしても避けられない運命なのだろうか。
「ど、どうなさったんですか」
驚いたような女神の声。
「こうやって私が覆っていれば、隕石は来ませんよ」
さも当然のように付け加えたエリザの言葉に、動揺が走る。つまり隕石の危険が去るまでずっと星を覆い、護ってくれるというのだろうか。女神はそこまでの慈悲を掛けて下さるのだろうか。
「もう、見捨てたりなんかしません。そんな疑り深い人は、お姉さん許しませんよ」
あくまでも軽い調子でエリザは応え、惑星を更に近くまで抱き寄せた。


それから暫し。エリザとしても星を抱き締める以外にすることがないので、惑星のことを色々聞いてみる。
「この星って、どのくらいの大きさなんですか?」
彼等の尺度で直径約三万三千キロメートルとのこと。それが胡桃ほどの大きさだから、エリザはその五十倍として約一六〇万キロメートルとなる。『キロメートル』という単位が分からないと言うと、一キロメートルで彼らの身長の六百倍くらいだと教えてくれた。
「とすると百五十に一万に六百、ってこと……ですよね。倍率にすると」
弱々しく呟く。
「ざっと十億だね。十億倍!」
「じゅうおく……?」
計算は惑星住民の方が速かった。無邪気な声に対し、エリザはその途方もない解を呟き返す。一万倍の、さらに十万倍。どちらも経験はあるが、その積とは。
「道理で、皆さんの姿が見えないわけですね」
「道理で、女神様の指しか見えないわけだ」
互いに感嘆するしか無かった。

「この星には、何人くらい住んでいますか?」
試しに尋ねてみると、百億程度とのこと。これもまたエリザにとって聞いたことのない数だった。
「つまり私は、百億もの命を抱き締めているんですね」
彼らを愛おしいと思うと共に責任の重さを感じずには居られず、身震いしてしまう。
「安心してくださいね。絶対に護りきって見せます」


なおも続く他愛もない会話は、第三者の出現によって途切れる。

エリザと同じくらい巨大な女性が忽然と現れたのだ。

やや茶色掛かった金髪に、帽子と腿丈のタイトワンピース、アンクルブーツは桜色、ガーターとタイツは白。漆黒から浮く配色もあってエリザも住民も固まってしまう。
「こんにちは。惑星看護婦(プラネット・ナース)のセシリアです。よろしくー」
お構いなしにまくしたて、更にエリザにも尋ねる。
「あなたは?」
「あ。はい……」
いきなり問われても即応できず、数瞬の間まじまじと見てしまう。きわどい服装を恥ずかしがるでもなく、セミショートの髪型も相まって快活な印象を受ける。どちらにせよ、悪い人ではなさそうだ。
「治癒術師のエリザ=トーランドと申します。よろしくお願いします」
少し間を置いて、どうにか挨拶を返すエリザ。星を抱いているのでお辞儀することも出来ず、頭だけ軽く下げる。
「エリザさんね、よろしく。未確認の巨大生命体が出たと聞いて来たの。善い人そうで良かったわ!」
そんな簡単に決めていいのだろうか。自分のことを棚に上げて怪訝そうな表情になるエリザを見て、セシリアと名乗ったその女性は即座に謝る。
「えっと、ごめんなさい。考えてることがすぐ口に出ちゃうの」
かと思うと、早口でまくし立てる。
「で、早速だけど、ここに来た理由とか、経緯とか、その辺を教えて……頂けますか?」
最後だけ敬語というちぐはぐさに苦笑しつつ、エリザは今までの経緯を簡単に説明する。元々は治癒術師として従事していたこと。異世界から嘆願の声を聞き、移転術で飛んできたこと。近く隕石が落ちると言うが、見つけられなかったので星を抱いて護っていること。
「それが惑星ね?」
「はい」
隕石を警戒しつつ、エリザはそっと掌を開けて惑星を見せる。
「こんな小さな惑星、よく見つけたわね……」
心から感心しているように、セシリアは惑星を凝視して呟く。そして惑星を心配そうに見守るエリザに気づいて向き直る。
「ああ、まずは隕石ね。えーと、これかな?」
ひょいと手を伸ばして何かを摘み、人差し指を惑星とエリザの方に向ける。指の上には砂粒程度の黒い点が乗っていた。
「小さく見えても威力は十分よ。星が滅ぶというのも大げさな話じゃないわ」
セシリアは真剣な表情で説明する。


隕石問題があっさり解決したので、改めてセシリアは自身について語り始めた。惑星看護婦というのは、有人惑星を探索して侵略や大規模災害から保護する仕事だという。
「だから、本来なら私たちが先に来て護ってあげなきゃいけなかったんだけどね」
しかしこの惑星はあまりにも小さく、文明もそれほど発達していないため彼らの信号を察知できなかったのだという。
「まぁ、結果オーライってことね。良い人に護って貰えて良かったじゃない」
惑星に向き直り、人差し指を差し出す。そして
「この幸せ者っ♪」
軽く突いた。

驚いたエリザは胸に惑星を抱いたまま身を捩る。
「何をするんですか! 傷ついたらどうするんですかっ!」
本気で怒っている。
「いや。あの……」
何か言おうとするセシリアを無視し、エリザは惑星の声に心を傾ける。
「大丈夫ですか? すぐ治療します」
しかし、苦痛の声は全くといっていいほど上がらず、治療によって治ったという声もない。
「あれ? えーと……」
戸惑うエリザに対し、セシリアはゆっくりと噛み砕くように話しかける
「この人達なら大丈夫よ。傷付けなんかしないわ」
「そ、そうなんですか?」
「ええ。『補助器』があるから、ちゃんと傷つけないようになってるの。じゃないと大変でしょ?」
傷つけないための機械を持っているとのこと。彼女に言わせれば、むしろ補助器を使わないエリザの方が見ていて危なっかしいそうだ。
「折角だし、あなたも補助器を着けてみる?」
またあっさりと言うものだ。ただ断る理由もないので、エリザは提案に乗ることにした。セシリアが耳に手を当てて どこか見えない所と二言三言交わすと、銀と皮で出来た細い腕輪が忽然と現れる。その腕輪をエリザの手袋の上から巻き、
「まずは初期化ね」
と言って金属部分に触れる。そして投影される映像を二三度指でつつく。
ほどなく淡い光が腕輪から発せられ、エリザの体全体を包み始める。光を浴びすぎないようセシリアはエリザの胸元から惑星を摘んで掌で遮り、自分の胸元に引き寄せる。

光は数瞬で引き、エリザは改めて自身を見回す。いつのまにか、セシリアと同じ桜色の看護婦姿になっていた。
「えっ?!」
エリザは顔を赤らめ、慌てて自分の身を抱き締める。丈が短い上に体の起伏がはっきりと顕れ、彼女にとってはやや扇情的ともいえる装いだ。

一方のセシリアは感心するような口調で
「うん、可愛いじゃない。良く似合ってるわよ」
と感想を述べ、掌の覆いを外して惑星住民にエリザの衣装を見せる。御丁寧にも星を回して全住民に公開する念の入れようである。

惑星から来る感嘆やどよめきはエリザにもはっきりと聞こえた。「可愛い」とか「明るい」「凄い」「大きい」といった声が幾重にも聞こえる。
「そ、そうですか?」
ほぼ全肯定の反応を前に怒る気も失くしてしまい、エリザは恥ずかしそうにはにかみながらも くるりと身を一回転して見せる。たおやかな黒髪と起伏に富んだ明色のコントラストが流れる様子に喝采が飛び、エリザは頬を掻きながら照れくさそうに微笑む。
「私達の制服なんだけど、気に入って貰えた?」
「ええ、まあ……」
恥ずかしさは多分にあるものの、この状況で否とは言えない。セシリアの問に曖昧な答えを返し、逆に質問する。
「この聞こえやすいのも、補助器……というものの効果なんですか?」
「ええ。服だけじゃなくて、あなたの感度や大きさも調整出来るの」
答えるついでに、セシリアは使い方を簡単に説明する。変更したい内容を考えながら腕輪の金属部分を触れば、画面が投影される。画面上のスライドとボタンで操作し、ボタンに触れた時点で実際に変更されるのだという。
「ね? 簡単でしょ?」
「ええ。そう、ですね……」
むしろ、こうも簡単に大きさなどを変更出来ても良いのだろうか。言外から不安を察したセシリアは、補助器の絶対的な機能としてまず相手を傷つけないようになっている旨を付け加える。
「つまり、どれだけ大きくなっても、直接触っても大丈夫ってわけ」
セシリアは胸元の惑星を右手で軽くつつきながら言う。そして彼女は惑星など無かったかのようにエリザの方へと近づき、肩を掴んで引き寄せる。

エリザの左胸とセシリアの両胸。惑星の数倍もの膨らみに三方から攻め込まれ、惑星は完全に包まれてしまった。
「これも問題なし。凄いでしょ」
「……」
突然の状況に、エリザはまたも顔を真っ赤にして硬直するのみ。高まる鼓動がそのまま胸の先にある惑星を揺さぶっているのが分かる。
「この子たちも満更じゃないみたいよ。聞こえるでしょ」
惑星からの声は、エリザにも はっきりと聞こえていた。鼓動による揺れは補助器に吸収され、響きわたる音はある種の安堵を与えているようだ。服の桜色は雲のように空を埋め尽くだけでなく高層建築に減り込んでおり、多くの人々がビルに登ろうと群がっている。
「こらこら。みんなが登ったら、ビルが崩れるわよ」
笑いながら住民を諌め、セシリアは抱き締める力を強める。桜色の雲は更に高度を下げ、手を伸ばせば届くところまで降りてくる。

そしてセシリアは住民に提案する。
「これなら服の中に入れるでしょ。さぁ、いらっしゃい♪」
「えっ?」
驚いたエリザが声を上げて目を合わせるも、セシリアは疑問に思う理由が解らないと言わんばかりの表情だ。住民も彼女の言う通り、看護服の布地に取り付きはじめる。生地の素材は綿菓子のような柔かさにも関らず彼らの体重を支えており、落ちる心配が無いと分かった彼らは続々と生地内に入ってくる。
「来てるのが分かる?」
紅潮したエリザはセシリアの問いに俯き加減で頷く。極小の存在が服の中でモゾモゾ動く感覚が胸の先端に伝わり、思わず熱い吐息が漏れる。
「感度を上げてもいないのに、凄いわね」
妙なところに感心しつつ胸元の生地を引っ張ると、布地の表面が薄く剥がれる。更にセシリアは身を引きつつ、薄幕で惑星を包む。

いったい何をするつもりなのだろうか。エリザが不安気に見守る前でセシリアが先ほどの薄膜を剥がすと、惑星表面の大陸や海も一緒に剥がれる。そしてセシリアは膜を地表ごとエリザの左胸に貼り付ける。
「……?!」
惑星表面を地図のように貼り付けられた。突然の事態に目を丸くしたまま硬直するエリザだったが、それに構うことなくセシリアは褐色の惑星残骸を左手で引き離し、右掌をエリザの左胸に当てて押し撫でる。
「こうやってみんなを運ぶこともあるの。どう、気分は?」
「え? あ、その……」
話を振られても直ぐには答えが出ない。それでもエリザは左胸の上に両掌を添え、住民達に尋ねてみる。
「あの……皆さんは、どうですか?」

意外にも返ってきたのは、今更どうもこうも……という苦笑交じりの声だった。世界滅亡の危機に、星をも凌ぐ巨人達の出現。変身ショーに続いて惑星を丸ごと包み込まれた以上、どうにでもなれという感じらしい。驚かせるだけで実害も無く、逆に治療が行き届いている状況も彼等をある種の諦観に向かわせているようだ。
「ふふ、素直ね」
満面の笑みを浮かべるセシリアにつられ、エリザもつい笑ってしまう。
「この子達が愛おしい?」
「ええ」
エリザは即答と共に頷く。その動きは地殻にも伝わり、短い悲鳴が上がった。


惑星の表面を剥がした理由は遊ぶためだけではなく、内部のマグマを均して大規模噴火を抑えるためでもある。彼女らは隕石や大規模噴火、超新星、侵略といった様々な滅亡要因を注視しているのだという。
「じゃあ地殻を戻す前に、補助器の機能をもう少し説明するわね」
そう言ってセシリアはエリザの左手を取り、腕輪に触れる。
「さっきも言ったとおり、感度を上げることも出来るの。この機能無しに彼等と話せるって、凄いことなのよ」

言い終わらないうちに、エリザの感覚が一気に鋭くなる。住民が服の中で動く感触にも慣れてきていたが、快感の壷を針で突くような強い感覚に転じる。
「あっ!」
短い悲鳴を上げ、背中を反らせるエリザ。体全体が熱くなり、痙攣するかのように体中の筋肉が締まる。
「みんなー。大きなお姉さんを、気持ちよくしてあげてね!」
おう、という小さな声が無数に上がる。星より大きな体躯が自分達に反応しているのが痛快極まりないようで、住民たちも乗り気だ。
エリザの艶っぽい声は全世界に届き、体の変化も様々な現象として住民に観測されていた。気温の上昇や地響き音の頻発と強化、そして何より胸の中心部が盛り上がることで大地を押し込み、引き延ばされた地殻が悲鳴を上げ始める。
「やっ、やめ……」
「止めなくて良いわよ。御褒美あげるから」
エリザの抗議は言い終わらないうちに却下された。そればかりか、セシリアは再び腕輪に触れて操作する。
「ホルモンバランスも変えちゃったりなんかしてー」
悪戯っぽく説明するや否や、今度は胸の先に熱が集まり、抑え込んでいた快感が更に高まる。
「えっ、なに? やだ……」
何が起こったか把握するよりも早くエリザの胸から熱いものがほとばしり、瞬時に意識が途絶えた。


軽い脱力を感じつつ我に返ったエリザの視界に写ったのは、心配そうに自分を見ているセシリアだった。
「ごめんね、ちょっとやりすぎちゃった。でも、まさか大きくなるなんて」
一気にまくし立てるセシリア。しかし内容に反して彼女の大きさは前と変わらない。怪訝そうにしているエリザに、彼女は説明を付け足す。
「左胸を見てみて」
地面を思い出したエリザが視線を転じると、灰色の薄膜は直径二分(六ミリ)程度まで縮み、ボタンよりも小さくなっている。
「こんなに……」
小さくなってしまったんですね、と出そうになった言葉を飲み込み、代わりに
「私、大きくなってしまったんですね」
と吐き出す。
「そう。さっきの二十倍弱ってところかな」
セシリアはそう応え、いまや胡麻粒ほどになってしまった星を見せる。

必要以上に恥じらう反応が楽しかったので、つい感度を上げすぎてしまったのだという。快感の余り母乳を噴き出すのは想定内だが、巨大化は予想外とのこと。
「えっ……」
彼女の説明でエリザは自分が何をしたか思い出し、一気に顔が紅潮する。恥ずかしさの余り半ば混乱しつつも人差し指を左の胸先に当て、住民に語りかける。
「あ、あの……大丈夫でしょうか?」
その問に対して住民が応えるより早く、セシリアは苦笑混じりに返す。
「もう、大丈夫だってば。補助器があるんだから」
少し遅れて、彼女の言葉通り無事を伝える声が多数届く。
地面がビキビキと音を立てて大きく傾いたかと思うと、文字通り世界を揺るがす爆音が天に轟き、白い奔流が一瞬で桜色の空を埋め尽くしたのだという。喩えるなら滝壺から上を見るような光景だが、規模は比較にならない。世界沈没どころか衝撃で吹き飛ぶとさえ思われたが、白い暴発は空を染めるのみで地上に届くことはなかった。代わりに甘いミルクの香りが漂い、今はどこに行っても匂うのだという。
「ね? 直撃なんかしないって。そんなことしたら、みんな飛んじゃうもの」
セシリアは爆発を表すように右掌をぱっと開いて説明する。
「だからミルクは一度服に貯めて、少しずつ出るようになっているのよ」
「つまり、想定済みという事ですね。救助の一環として」
どこまでも至れり尽くせりな機能に感心すべきか、呆れるべきか。言及する気にもなれないので、話題を変えることにした。
「とりあえず、元の大きさに戻りますね」
エリザはそう言って目を閉じるが、セシリアは「ちょっと待って」と短く制止し、そして悪戯っぽい微笑みと共に提案する。
「せっかくだから、今の大きさを もうちょっと見せてあげましょうよ」 セシリアの提案に対し、意外にも住民は乗り気だ。完全に『毒を食らわば皿まで』の心境である。
「驚いたり、しませんか?」
心配するエリザが尋ねても、ここまで来れば同じようなものだと反応する。地面が平面に延ばされているため地平線は曲線を描かず、普段は見えない遠くの山まで視界に入っている。空は依然として二人の超巨大看護婦に置き換わっており、大きく突き出した四つの球体が守護神のように鎮座している。光景がこれ以上に変わったとしても、今更どうということではない。
「話が分かるじゃない。じゃあ、まずは指からね」
にこやかに言いつつセシリアは左人差指上の世界に右人差指の先を置く。指先といっても幅二十万キロ 長さ四十万キロにもなり、彼らの惑星より数倍大きな星が落ちてくるような光景だ。
「あなたも乗せてみて」
「はぁ……」
促されるまま、エリザも右の人差し指をそっと乗せる。世界を覆って余りある指先には変わりないが、遠慮がちな動きや心話を通じて気遣いが伝わっているのだろう。驚きの仲にも憧憬に近い感情が混じっているようだ。
「貴方のほうが反応良いじゃない。嫉妬しちゃうなー」
微妙に口を尖らせつつ、セシリアはエリザの背中に右手を回す。そして何かを摘んで大地の上で振る。

地上から見れば、恐ろしいまでに太く黒い棒状の物体が東の空から現れ、接近したかと思うと一気に西へと去る。かと思えば西から東、更に東から西へと何度も往復する。
「さて、これは何でしょう?」
悪戯っぽく尋ねるセシリア。だがそれ以前に何が起こったか把握するだけでも数瞬を要する状況で、答えは返ってこない。
「答えは、エリザさんの髪の毛でしたー」
あっさり解答を発表したセシリアは、地上の一センチほど上から摘んでいる黒髪を振って見せる。
「綺麗な髪ねー。太さは二千キロくらいかな」
何でもないかのように補足するが、直径二千キロは小さな国なら丸々収まる大きさだ。つまりは上空から優しく見守るエリザの、流れるような黒髪が一本落ちれば国が幾つも滅ぶ……
住民の想像を見越してか、セシリアは適当な平野部を髪の先でつつく。それだけで真下にある平野は暗やみに包まれ、それ以外の場所でも天へと伸びる黒柱を仰ぎ見ることが出来る。
「どう? 大きいでしょ?」
相変わらず楽しそうに問うも、感嘆のあまりか応答は少ない。
「じゃあ最後に、私達の全体を見せてあげるわね」
そう言ってセシリアはエリザの両肩に手を当て、自分たちの体を上方向に動かす。それによって相対的に地表からの視点は下がり、住民からの景観も変わってゆく。地平の四方に鎮座する球体は空高く上がり、代わりに二人の腹部が地平線から姿を現す。それらが横に広がるって腰部となり、映る部分が多くなるに従って巨躯の遠近感が徐々に強調されていく。 桜色の服が途切れ、ガーターと脚が見えたところでエリザは慌てて両掌をあてがい、ミニスカートの裾を押さえる。遙か上空では上半身を俯き加減に傾け、顔も心なしか紅潮しているようだ。
「いいじゃない、見せて減るもんじゃなし。穿いてるんでしょ?」
エリザは弱々しく頷くも、掌を退けようとはしない。一方のセシリアは堂々と胸を張ったままだ。
「逆に、思いっきり見せてやればいいのよ。有り難みも無くなるし」
そう言い放ってスカートの裾を持ち上げ、脚を開いて小さな大地を跨ぐ。更に彼女は太股を閉じ、僅かな隙間に世界を閉じこめた。

裾から見えそうだと内心期待していた住民達にとっては、様々な意味で予想外だ。天頂には水色の下着が南北に連なり、それを桜色と肌色が交互に囲っている。住民は硬直し、何も言えない。
「ほら、ね?」
セシリアだけが一人、得意げに笑っている。腿が地表を挟む前に脚を開くあたり、余裕さえ感じさせる。
「貴方も慣れておかないと駄目よ。ここに入れて護ることもあるんだから」
下腹部を指さして言うのを聞いたエリザは俯いたまま耳まで赤くなり、首を横に振る。
「あ。もしかして、えっちなことすると大きくなるとか。それで嫌がってるの?」
「ち、違います! 熱で大きくなるだけです」
セシリアの無遠慮な問いに対し、エリザは慌てて反駁する。
「ごめんごめん。えっちなこと『でも』大きくなるのね」
あっさり切り返されてしまった。

そうこうする間にも慣性で位置関係が変わり、地上からの光景も変わってゆく。桜色の傘が上空に去ると、今度は白のタイツが地平線上に現れる。その頃にはセシリアも跨ぐのを止め、軽く上半身を屈めて見守っている。エリザは相変わらず脚を閉じ、前に両掌を置いたままだ。

腿から膝、足首までは長きに渡って変化に乏しい。地平線の四柱が太くなったり細くなったりしながら、二人の巨躯が上に伸びて行く。踝が登る頃には遠近感のせいで脚が際立つほどに長く見え、ベルトから上は天頂にちょこんと乗っているような印象だ。 しかし続いて登る足は爆発的に大きく、慣れていると思っていた住民をまたもや驚かせた。片方は地上の何倍もある爪先が彼等の寸前に迫り、もう片方は登るに従って急峻な曲線が現れ、最終的にはヒール付きのアンクルブーツが優雅かつ雄大なシルエットを描く。その長さは四六〇万キロ、この惑星など比較対照にもならないのは言うまでもない。
「今ちょうど、足を見ているみたいよ」
突然沸いた声を怪訝そうに聞いているエリザに、セシリアはそっと耳打ちする。右足を軽く前に出しているだけなので、彼等が何に驚いているかさえ分からないのだ。
「そろそろ終わりね。じゃあ最後に」
そう言ってセシリアは足を動かし、ヒールの底を地上に翳す。直径三センチ程度の底は、世界を押しつぶす直径六十万キロのプレス機だ。最後の最後まで彼女たちの大きさを感じざるを得ない。

セシリアは足を退き、今度はエリザの肩を持って自分たちを下へと戻す。
「もう何度も言うようだけど、本当に大きいでしょ?」
返ってくるのは感嘆ばかり。素直な反応に、二人の表情も綻ぶ。
「恐怖で彼らが倒れたりしないかと、冷や冷やしましたよ」
安堵したように胸を撫でつつ、エリザは言う。そして胸元まで戻ってきた地面に指を添え、そっと抱き寄せる。
「念のため、看させて頂きますね」
エリザの優しい鼓動が、再び世界中に響き渡る。怪我人は多少居るものの、平時よりずっと少ないようだ。

そんなエリザを、セシリアは半ば呆れつつも見守っていた。
「心配性ね」
「ええ。でも無事ならそれに越したことはありませんから」
事もなげにエリザは応える。
(良い心がけね。激務で倒れなければ、だけど……)
そんなことをセシリアは考えていた。

解放された大地を今度はセシリアが摘み、語りかける。
「実はね。私たちの大きさを見て貰った理由は、もう一つあるの」
「え、本当に?」
「楽しみたかったからじゃないの?」
「というか、絶対楽しんでたでしょ」
急に真面目な話になったので、住民達は冗談だと思っているようだ。
「まあ、それも多分にあるけどね」
図星だけに、苦笑せざるを得ない。だが、他に理由があること自体は間違っていない。
「少し話が長くなると思うけど、落ち着いて聞いてね」
神妙な顔つきで、彼女は静かに言った。


セシリアがまず、質問から始める。
「宇宙人を見るのは初めて?」
唐突な問いに、住民の応答は鈍い。前に見たことがあるという者や、政府が隠しているという者が少数居るものの、主な答えは『噂には聞くが実際に見るのは初めて』という内容だ。
「そうね。たぶん初めてだと思うわ」
一人納得するように頷き、言葉を継ぐ。
「もし宇宙人に会っていたら、おそらく貴方達はここに居ないと思う」
セシリアの表情は、真剣そのものだった。

彼女の説明によれば、この惑星住民の身長は今まで判明している宇宙人種平均の十分の一ほどである。星系間航行を可能とする人種は平均より幾らか大きく、中でも侵略行為に及ぶ種族は最大で百倍まで行くのだという。
「これがどういう意味か、わかる?」
一旦説明を区切って質問する。その答えは、程なく返ってきた。
「体の大きさと発展に、関係がある……ってこと?」
回答にセシリアは「御明察」と満足したように頷き、さらに質問を重ねる。
「じゃあ、なぜその二つに関係があると思う?」
しばし待つも、今度はざわざわと議論するのみ。解を推察する声もあるが、信じたくないのが伝わってくる。とはいえ、事実は知らせなければならない。軽くため息を付いて、セシリアは切り出す。
「それはね。発展前に侵略されるから」
侵略といっても不干渉のまま保護するケースから一気に殲滅するケースまで様々だが、大概は『元の状況などお構いなしに資源を確保してポイ』である。
「だから、小さな子を保護しているのよ」
そこまで言って、ようやくセシリアは優しい笑顔に戻った。
「今まで見つけてあげられなくて、ごめんね」


セシリアの曰く、保護の方法としては施設内保護と現地保護があり、病院でいう入院と往診のようなものだという。前者は惑星看護婦が常に見守るため安全だが、星空は全て仮想的な映像となり、宇宙観測や開発は大幅に制限される。逆に後者は侵略への対応に時間が掛かるため危険だが、宇宙観測や開発への制限は無い。どちらにするかは希望次第であり、別の星系に連れて行く折衷案もある。
「こういうのは気持ちの問題が大きいと思うから、しっかり話し合って決めてね。手伝えることがあったら何でも言って」
そう伝えてセシリアは地核を拾い上げて惑星を元の球状に戻し、エリザにも促して惑星から少し離れる。

程なくして相談を求める声が届き、二人は惑星の前に戻る。問うてみると、保護して貰う方向で考えてはいるものの、侵略者がどういったものか想像出来ないため最後の踏ん切りが付きにくいとのこと。
「そうでしょうね。わかったわ、私たちに任せて」
「えっ?」
いつの間にか一緒にされているエリザが声を上げるも、セシリアは既に乗り気だ。エリザの右手を取り、腕輪に触れて画面を出す。
「大きさは……『プラス二』で良いかな」
そんなことを呟きつつ操作するも、指が止まってしまう。
「『プラス四・三』が最小なのね。すごーい」
「えっと……そうなんですか?」
勝手に驚かれても、エリザには事態を理解できない。さすがに気づいたのか、セシリアは丁寧に説明する。

目盛りは装着者の大きさを表し、全宇宙人種の身長平均をゼロ、十倍ごとに一増えるよう振られている。侵略者の最大値にあわせて今回はプラス二(百倍)としてみたが、エリザの場合は元が大きいためプラス四・三(二万倍)が最小となる。この惑星の人類平均はマイナス一(十分の一)なので、彼等にとってセシリアは千倍、エリザは二十万倍の大きさとなる。
「でも、今更彼等がそれで驚くことも無いと思います」
説明に熱の入るセシリアとは対照的に、エリザは冷静だった。数万倍という大きさは、彼女にも一度二度は経験している。乗物が少ない世界なら指の腹、発展していても掌で都市を丸ごと覆える程度だ。相当な大きさではあるものの、今の状況を考えれば たったの二十万倍でしかない。
「んー。まあ、確かにそうかもね」
セシリアも彼女の意見には納得するしかなかった。どのみちエリザを小さくする方法は無いのだから、このまま行くしかない。


一通りの操作を終えた二人は、地上に降り立っていた。
セシリアの身長は、惑星住民の尺度で約千七百メートル。大都市を目の前にしても彼女に並ぶ建物は存在せず、ヒールの嵩上げもあって踝に届くものが幾つかあるというところだ。

そしてエリザに至っては身長三百キロメートルを越え、地上に降りたというより地表が近くなった感じだ。空は漆黒に近い紫で、光は膝から下に閉じこめられている。十数メートル先には白く丸い水平線がある一方、真下の地上は様々な色を湛えている。灰色は街だろうか。

住民から見るエリザも圧倒的だ。細々とした地表の全ては靴底の厚みにさえ届かず、爪先は幅十から二十キロ、高さ五キロの丸い台地として聳えている。その奥には足の甲から踵まで急峻な斜面が延々と駆け上がり、靴の上は風景と完全に切り離され、雲が無ければおよそ三千キロの彼方から全貌を見ることができる。奥行きもまた爪先からヒールまでで四十キロ以上あり、踏みしめる範囲は爪先による一辺二十キロの三角とヒールによる直径六キロの半円がそれぞれ二つずつ。海の上でなければ大都市を丸ごと飲み込める広さだ。
「ほんっと、大きいわね」
セシリアは腰に手をあて、二百倍近い相手を見上げて直言する。言われるエリザは圧倒的な大きさにも関わらず内股でミニスカートを押さえ、顔を紅潮させている。
「やっぱり、恥ずかしいです。こんな短いスカートだなんて……」
「何言ってんの。ちゃんと履いてるんでしょ?」
弱々しい抗議もバッサリだ。当のセシリアはやはり堂々たる仁王立ちのまま、下からの視線を気にする素振りもない。
「すぐには慣れないか……じゃあ、お洒落しましょう。補助器で変えてみて」
「はぁ……」
小指の先ほどの相手に押し切られてしまい、エリザは仕方なく腕輪を操作し始める。

顔を赤らめたまま「えっ」とか「いや」など声を漏らしているのは、選択肢への反応だろう。そんなエリザをよそに、セシリアは侵略者としてどう振る舞うかを説明する。とは言っても単純なもので、彼女は開けた場所で軍隊を待ち、準備が出来たら軍隊は思う存分彼女を攻撃する。攻撃の効き具合から、侵略者を追い払う能力についてセシリアが判断するとのこと。
「あ。それから、あの娘は考えなくて良いわ」
思い出したように、セシリアは後ろ上方を指さして付け加える。
「あんな大きいのは普通いないから。それに、勝てる気もしないでしょ?」
「私のことですか?」
不意に低い声が割って入り、セシリアはぎこちなく振り返る。目があったのを感じたエリザは前後のバランスを取りながらゆっくりとしゃがみ込む。その動作に伴い、薄暗い影がセシリアを含む街全体を浸食する。
「あ、私の話が出たと思ったので……」
控えめな口調で言うエリザは住民の心境を察したのか、申し訳なさそうな表情を浮かべている。二十万倍というのは、近づくにつれて実感が増す大きさである。増してセシリアが居ることで大きさの認識も二段階となり、自分たちの小ささを殊更に感じているようだった。
「そうね」
少し間をおいて、セシリアが応える。
「実はあなたくらい大きいと、惑星看護協会に入ることが多いの」
「はぁ」
生返事のエリザも少し考え、そして質問する。
「つまり、侵略者ではないと?」
「ええ」
セシリアは頷いて説明を加える。今のエリザくらいまで大きな存在は突然変異によってのみ発生し、ごく少数のため立場は弱い。なので惑星看護協会に属して救援活動を行い、味方を増やすことで自衛しているのだという。
「そんな経緯があったんですね」
説明を聞いたエリザが、神妙な面持ちで静かに語りかける。
「いいのよ。この仕事は好きだし」
応えるセシリアは、あっけらかんとしたものだ。
「貴方もそうでしょ?」
「ええ」
エリザは微笑みとともに断言する。
「好きですし、誇りに思っています」


演習場所と開始予定を聞いてみると、近隣の軍港周辺なら一時間で部隊を展開できるとのこと。
「うーん。待つには待つけど、それまでに街が三つか四つは無くなると思うわ。例えば……」
こともなげに言って、セシリアはすっとしゃがむ。それだけでも彼女の巨躯が地表に詰めより、影はそれまでの何倍にも広がるが、更に彼女は前方に手をついて俯せに横たわり、掌を置いて顎を乗せる。最終的には幅三~四百メートル、長さ一・七キロメートルに渡って市街地が覆われてしまった。
「こうやって寝ころぶだけで、ね?」
もちろん補助器の効果があるため、下敷きにした建物を壊したり人を傷つけることはない。だがそれでも突然の接近に住民は悲鳴を上げ、懸命に逃げようと右往左往している。
「こらこら、あまり慌てないの。何もしないわ♪」
見守るような笑みと共に、優しく艶っぽい声を掛ける。そして仰向けに転がり、上で見ているエリザにも語りかける。
「貴方もやってみたら? 近くで見ると面白いわよ」
「あまり驚かせるのも、どうかと思います」
対するエリザはいかにも困ったように眉尻を下げて応じる。
「それに、驚いて怪我をする人だって居るでしょうし……」
「ああ、それなら大丈夫よ。だって」
「すぐに治せるから、ですか?」
セシリアの言葉を遮るものの、それ以上咎める言葉は出なかった。近づくまで実感しにくい大きさは、一挙一動の先に必ずトラブルがあることを意味する。しかし接触を断てば相手の存在を感じられず、大きすぎるがゆえの孤独をずっと抱えなければならない。
「でも、触れ合いたい、という気持ちも分かります。見守るだけなんて、寂しすぎますよね」
ぽつんと出た言葉に、セシリアは目を輝かせて頷く。
「そうよ。私たちは女神様じゃないんだから」
そして横転し、再び俯せになって街に語りかける。
「だから、ちょっとだけ。ね、いいでしょ?」
セシリアの大きさに加え、懇願するような笑みを前にして住民たちはどうにも反対できない。制止役と思っていた黒髪の看護婦も苦笑混じりの笑みを浮かべているだけだった。


互いに相談しあった結果、軍隊の到着までセシリアは近辺の街を、より大きなエリザは遠方の国を回るようにした。遊ぶなり要望を聞くなり適当に、ということだ。
「治療はもう要らないはずだし、大きすぎて思いつかないかもねー」
「そうですね……」
セシリアにとっては軽い揶揄のつもりだが、エリザは真剣に捉えている。であれば街で気ままに遊べば良いのに、律儀なものだ。
「じゃあさ。さっきのミルクを振る舞ってあげたら?」
少し考えてから提案するとエリザの顔がぱっと晴れ、しかしすぐに赤くなる。
「えと、それってやっぱり、服を……」
「脱ぐ必要はないわよ」
おずおずとした声を遮って言うと、エリザの表情に安堵が浮かぶ。本当にわかりやすい。
「雨にして降らせるか、給水管に繋ぐか、採掘させても良いわね。その辺は補助器と住民の皆がやってくれるわ」
採掘させる、というくだりでエリザは再び赤面する。
「くすぐったかったり、します?」
「うん、気持ちいいのよ」
返事になっていない。だが今悩む必要もないことを悟ったのか、エリザはため息をつく。

幸か不幸か、協力的な市民から西の大陸で食糧事情が悪いという情報が寄せられたので、エリザは三百キロ以上の高さまで立ち上がり、周囲を確認してから祈るように手を組む。

ほどなく術を受けて雲や霧が一気に晴れ、互いに最大限の視界を得る。つまり数千キロの彼方から彼女の姿を視認することが出来るようになった。
「では、海岸沿いに西へ進みます。何かあったら、呼んでくださいね」
そう宣言し、エリザは言葉通りに海岸沿いを西へと歩み始める。しかし海上を歩くにも関わらず、彼女はまだ恥ずかしそうな様子で裾を押さえている。
「街を踏めば、見られずに済むわよ!」
声を掛けるとエリザは振り返り、顔を赤らめたまま睨む。しかしセシリアは構わず、手を振って見送った。


文字通り天を衝いていたエリザの姿は数歩で小さくなり、薄くなった桜色も淡い青空に溶け込んでしまう。そうなればもうセシリアの独壇場だ。 身を起こして四つん這いのまま街の中心部近くに迫ると、再び俯せになって中心のビル群に語りかける。
「さあ。お姉さんに願い事を言ってみて」
数十層の高層ビルも彼女の額の高さほどしかなく、逆にビルの総ての窓から彼女の顔が見渡せる。特に目の高さにある階の連中は彼女の視線を正面から受けたためか、軒並み机の下や壁の向こうに隠れてしまった。
「こらー。折角願い事を聞いてあげるっていうのに、勿体ないじゃない」
セシリアは怒る様子も無く、微笑んだまま見渡している。彼らが突然の出現に驚き反応できないのは想定済みだ。
「じゃあ、私から」
セシリアは四つん這いに身を起こし、少しだけ前に進む。そしてビル街の真上に胸が来たところで腕を曲げ、上半身を下ろし始めた。
「重くて大変なの。支えて貰えるかな?」
片方で一区画以上ある二つの膨らみがビル群の上にのしかかり、変形してビルの間を埋めていく。補助器の効果でビルは崩れないが、上層階からの景色は一面の桜色に置き換わり、鼓動の音と振動がビル街に優しく伝わり響く。
「うーん、ちょっとちくちくするかなー」
重々しく下がる双球を前後左右に揺らしたり他の区画にも乗せるなど一通りビル街を弄ぶ一方で、セシリアは相手の声にも耳を傾けている。だが聞こえるのは驚きの声ばかりで、抗議や対案は無い。
「ちょっと、刺激が強かったかな?」
一旦上半身を浮かせて尋ねる。
「強いも何も……」
「何が起こっているのか……」
こんな具合の返答を聞き、初めてビル内の連中から自分が見えないことに気づいた。
「あらあら……じゃあ、貴方達に聞いてみようかな」
今度は、ビル街から少し離れた中層区域に尋ねる。しどろもどろの反応を総合すると、とにかく大きさや奔放さに圧倒されたという感じだった。
「そうね。でも、本物はもっと過激なのよ。味わってみる?」
諭しているのか、楽しむつもりか。反論のままならない住民に対し、彼女の答えは決まっていた。

手近なビルにキスしたり、軽く口に含む。体全体を地面に押しつけ、前後に小刻みに動かす。脚を開いて上半身を起こし、今度は臀部で円を描くように地面を撫でる。さらには手近なビルを太股に挟み、やさしく擦り合わせる。その他諸々の遊びを、軍備が整うまでの一時間たっぷりと味わうこととなった。

無害だからこそ長く弄ばれるというのも皮肉な話である。


大陸沿いは大都市が多く、その一つ一つに挨拶や御用聞きしながらエリザは進んでいく。幸か不幸か、彼女たちの出現によって外出自粛令が出ているため飛行機や船は帰港しており、驚いた住民による交通事故も平時より少ないとのことだ。それでも負傷者ゼロとはいかないので、エリザは時折立ち止まっては祈りを捧げ、快癒を見て次に進む。

こちらも特に要望は挙がらなかった。
「まあ、この大きさですもの。想像できませんよね」
エリザは微笑みつつ、穏やかに返す。
「灌漑や水利をお手伝い出来れば、とも思ったのですが……皆さん既に整備されてらっしゃいますし」
大きさの差から自尊心を失いがちな住民を それとなく称えるのも忘れない。
「何言っているんですか。要望がないのは幸せの証ですよ」
提案が無いことを住民から謝罪され、慌ててフォローする。
「私には、地形を変える位しか出来ないと思います。大きすぎますもの」
照れつつも、少し寂しそうに言う。

エリザの様子と台詞が住民に発想を与えたようで、地形変更に関する要望が少しずつ寄せられるようになった。
 港の浚渫
 峠の平坦化
 ため池の造成
 川岸の嵩上げ
頼られる嬉しさを噛みしめるも、いざ作業に入ると今のエリザにとっては細かすぎる作業ばかりだ。精一杯身を縮め、地面すれすれまで視線を落として真剣な眼差しで土地を見渡し、指で地面を撫でる。視点の低下で空が明るくなったことにさえ気づかない。真下の住民にしてみれば、間近に迫る直径二十キロを越える両膝や、その上に柔らかくのし掛かる胸。上では真剣な表情が空を覆い、降りてきた指は直径二キロもの太さで全ての建物を圧倒する。はらりと落ちる髪の毛でさえ四車線の道路を埋め尽くす大きさは何もかもが想像の範囲外で、頼もしくも肝を潰される思いである。

何度か地面を撫でた後に、巨人から反応を問う声が届く。彼女にとっては紙一枚分の上げ下げも住民には十メートルほどの上下であり、浸水と渇水の両方を回避するのは思ったより難しい。良くない状況を伝える度に空を覆う顔は申し訳なさそうな表情になり、見ている側も居たたまれない。

頼んでいる側も「いや、もう良いよ」「十分やってくれたよ」と折れ始めるが、エリザも「引き受けたのは私だから」と言って譲らない。結局、多いところでは十回近い試行錯誤を経て、ようやく納得のいく工事が完成した。

すると今度は、前に通った街や内陸からも依頼の声が届く。離れた場所からはミニスカートの超巨大看護婦が甲斐甲斐しく世話しているように見えるため、要望する気になったのだろう。しかしすぐに彼らもまた、間近から見るエリザの迫力に圧倒されることとなる。


街の感触を味わっていたセシリアに軍備完了の報が入ったのは、エリザが去った一時間ほど後のことである。連絡を受けたセシリアは立ち上がり、海に向かって歩き出す。

砲弾が構える岬を左手に、海岸から更に十メートルほど進めば指定場所だ。彼女の足下には既に軍艦が密集し、耳を澄ませば航空機のエンジン音も聞こえる。波を立てないよう調整しているので陣形の乱れは無さそうだが、仰角が大きすぎるので調整に手間取っているようだ。
「んー、ちょっと近すぎちゃったかな?」
そう言ってセシリアは後ろに一歩引き、ぺたんと尻を着けるように下ろす。
「これで狙いやすいかな?」
艦隊の砲身が下がるのを見て、満足そうに頷く。

そのときふと彼女は思い出したように顔を上げる。
「そうそう。攻撃の前に、これだけは約束してほしいの」
何を言う積もりだろうか。展開する軍隊が聞き入る中、セシリアは腰を両腕に当てて言う。
「絶対に無理しないこと。いい? これは演習だからね」
映画にある緊迫した場面とは面白いほど真逆だ。待機する兵士の何人かはつい吹き出してしまうが、セシリアは真剣である。
「怪我人ならまだしも、死人なんか出したらやりきれないもの。ね?」
心配されるほどの戦力差にうなだれる将校達をよそに、兵士たちは彼女の優しさに感じるものがあるのか、どこか嬉しそうだ。
「じゃあ、準備が出来たら初めて」
セシリアの気軽な一言を合図に爆撃機や野戦砲、戦艦からの一斉砲撃が始まった。

一応の準備もあって火力は大きく、すぐにセシリアは炎と煙に包まれる。目標が見えなくなったため砲撃停止の命令が出され、煙が晴れるまでエンジン音のみが響く。 と思うと煙の中から腕が伸びて一気に煙を払う。再び姿を現したセシリアは殆ど変わっておらず、傷はおろか服の綻びさえない。うっすら煙で汚れ、小さく咳をしている程度だ。
「うーん。全部当たってはいるけど、威力がね。もうちょっと弱点を狙ってみる?」
余裕綽々の評価に助言まで付け加えてセシリアは軽く膝を開く。
「女の子の弱点、分かるわね?」
右腕を胸の下に添えて持ち上げ、意味ありげに微笑みかける。軍隊の面々はここにきて攻撃が彼女の前面にのみ届くよう配置されていることに気づいた。全て計算づくとなれば乗るしかない。再び陸海空の一斉砲撃が始まった。

セシリアは吐息と掌で煙を払い、自分が隠れないよう配慮しながら攻撃を受け続ける。弱点への集中攻撃が効いているのか、顔が少しずつ赤くなっている。
「そうそう、なかなか良いじゃない」
とは言うものの、良いのは照準であって威力ではない。彼女は左腕の補助器に触れ、自分の感度を一気に上げる。

触れる程度の感触が突つく感触へと変わり、更に将校や兵士達の緊迫した怒号も聞こえる。彼等の必死な思いが彼女の気持ちを更に引き上げていく。
「あっ、来てる!」
目を閉じ、ビクンと体を振るわせる。目の前の激しい反応に驚きつつも、攻撃が効いているという実感もあって士気は高まる。
「そう、その調子っ」
「いいわ、がんばって」
セシリアの応援を受けて攻撃は続く。上下の各部隊が連携して交代で撃ち続けることにより、一秒とて無着弾の時間を生じさせない。

執拗かつ継続的な攻撃にセシリアは目を閉じ、何かに耐えるように体を強ばらせる。そしてなおも数分に渡る砲撃の末、彼女は短い悲鳴と共に力なく崩れた。それを合図に砲撃は止まり、波とエンジンと吐息のみの静寂が再び訪れる。

ややあってセシリアは潤んだ瞳で戦艦を見やり、微笑む。
「ありがとう。楽しかったわ」
満足そうに大きく息を付くと やや真面目な表情に戻り、付け加える。
「でも追い払えるかというと……ごめんね。それは無理だと思う」
威力は不十分で速度も遅く、簡単に避けられる上に避けようとも思わないのだという。わざわざ感度を上げている時点で半ば自明だったが、改めて明言されると厳しい。
「いいのよ。だって兵器が進歩してないのは、戦争を避けていたってことだから。ね?」
セシリアも気遣ってフォローするものの、将校達の落胆は大きい。彼女は溜息を一つついて、伏し目がちな表情と共に問い掛ける。
「それとも、私に護られたくないの?」
ずるい質問に、今度は将校達が溜息をつく番だ。女の武器を使われては適わない。

現場の各部隊による協議の末、承諾へ向けて上層部を説得する方針で一致した。その旨を回答すると、セシリアは一転して「よかった!」と破顔する。
「もし上の人が渋るようなら言ってね」
微笑に凄みを加え、一言。
「侵略者がどれだけ危ないか、その人たちにも見て貰うから」


難工事もあってエリザの大陸横断には時間を要したが、海に出ると足下を気にする必要が無いため、すんなりと次の大陸に到達できた。こちらは海岸の一部を除けばほぼ一面の砂漠で、いかにも農作物が少なそうだ。何から話すべきか数瞬ほど迷うも、結局彼女は単刀直入に切り出す。
「えっと、治癒術師のエリザです。皆さんが食べ物に困っていると聞いて来ました」
これからすることを考えると顔が赤くなる。恥ずかしそうに援助を申し出るエリザを前に、住民たちは沸き上がった。

この大陸で人が住める場所は海岸沿いの街と点在するオアシスにほぼ限定され、それらは薄黄色の中にある緑の点として三百キロの上空からでも容易に判別できる。エリザはしゃがんで海岸の街を拾い上げ、左掌に乗せていく。それが終われば膝立ちで進み、オアシスを一つずつ慎重に拾い上げていく。

直径二キロ、長さ十~十五キロの指が街を丸ごと摘んでいく様子は、ここでもやはり相当な驚きをもって迎えられる。風景が急に現実感を持ったかと思えば天地を飲み込む怪物になる感覚だそうだ。近づかないと分からないのは厄介でもあり、新鮮な驚きを味わえる好機とも言えよう。

左掌が街で一杯になる頃には周囲の街をあらかた拾い尽くすが、大陸はまだまだ彼女の視界の先に延びている。このままでは日が暮れてしまいそうだ。
「うーん、流石に広いですね」
エリザは困ったような表情を浮かべ、左掌に話しかける。それと同時に彼女の視界には例の腕輪が入る。

そういえば、この補助器は様々な機能を提供してくれていた。ということは、今回も何か良い方法を用意して貰えないだろうか。そう考えつつエリザが腕輪の金属部に触れてみると、やはりというか腕輪は反応し画面を出力する。
  『居住地の収集とミルク供給を行います
  (はい/いいえ/詳細)
   範囲:大陸(変更)
   スケールは四・七に変更されます』
画面に書かれている内容はこのような感じで、操作開始や変更のためのボタンまで写っている。
「こんな機能まであるんですね……」
思わず感嘆の声が漏れる。街の人々も同感のようで、感心している。
「じゃあ、試してみますね」
街に伝えた上で、エリザは『はい』の部分をつつく。

変化は自動的かつ速やかに進められた。まず、左掌に乗る街達がゆっくりと浮かび始める。地表に散らばる緑も次々と地上から浮かび上がり、一カ所に集まり始める。

成り行きを呆然と見ているエリザの耳に軽い警告音が響き、目の前に再び画面が投影される。
  『準備完了
   仰向けに寝て下さい』
何をするつもりなのだろうか。訝みつつもエリザは腰を下ろし、周りに浮いている街が無いことを確認してから仰向けに寝る。

背中に感じる砂地は柔らかい上にほんのり暖かく、微かに背中が擦れる感触も心地よい。上には、この世界に来て初めての青空。いつもより濃い藍色の空も、暗黒の宇宙ばかりを見た後では新鮮に感じる。
(この空を、私が占領してたのね……)
自分が、というより自分の胸が空一面を桜色に覆い尽くしていたのだろう。下に目を転じれば、堂々たる丸い双峰が聳えている。

再び前に視線を転じると、無数の小さな影が視界に入ってくる。ここに来てエリザにも、補助器の意図する操作が分かった。
(今度は、大地になるということですか……)
しかし今更分かったところで、もう手遅れだ。彼女に出来る抵抗といえば、溜息をつく程度でしかない。

そんな思いをよそに、街は次々にエリザの上空へと集まってくる。住民からすれば、今まで見上げるしかなかった超巨大看護婦を下に見るのが新鮮らしく、街の縁からこぞって見下ろし、歓声をあげたり手を振ったりしている。
「もう、落ちても知りませんよ」
軽く手を振り返しつつ、それ以上動けないエリザは苦笑で応じる。既に街から落ちて空中に止められている者も居るようで、短い悲鳴に続いて嬌声が聞こえてくる。

一旦集まったところで、街は一斉に降下を始める。一つ一つの街は数ミリから大きいものでも二センチ程度と小さいが、エリザの体に降りると羽で撫でるような感触が走る。
「ひゃっ!」
くすぐったさにエリザは思わず体を震わせ、降着した街を揺さぶる。身を捩らないよう耐えるのがやっとで、声と震えは止まらない。
「あぅっ!」
「やめ……」
エリザは顔を真っ赤にして目と拳を固く閉じ、ひたすら全身を強ばらせて快感に耐える。山脈をも越える巨体が艶めかく鳴動する様子を、上空に居る住民は呆然と見下ろし、降着している街の者は大きな揺れと高まる気温をただただ受け入れている。
「感度を落とせばいいのに」
と助言する者も居たが彼女の耳には届かないようで、ましてや街の様子が摘み上げた時と異なることにも気付いていない。

数分にわたる責苦の末に街は全て降り立ち、次に服からミルクが染み出す。エリザにとっては全身から脱力する感覚であり、オアシスから見れば湖や街の外だった部分が白い水を湛え始める。辺りには甘い匂いが立ちはじめ、空には例の画面が投影される。
  『収集、および供給完了
   居住区を戻す場合は
   再びメニューを呼び出して下さい』
「どうやら、終わったようですね」
エリザは安堵したように呟く。補助器のおかげでまた恥ずかしい思いをしてしまった。彼女から見える範囲では胸の斜面に街々がへばりつき、それ以外にも腹部やスカートの裾まで人の感覚がある。

住民の方も水面に近づき、白い水を救って飲む。確かに香りも味もミルクそのものだ。互いに顔を見合わせ、地平線の彼方から見守っているエリザを見やる。
「お味は如何ですか?」
「いや……あの、美味しいです!」
あくまでも丁寧な問いに、住民の一人がぎこちなく返す。
「よかった」
エリザがの安堵を待っていたかのように、評価が殺到する。
「本当に美味しいよ!」
「いくらでも飲めそう」
「思ったより濃厚なんだね」
「暖かいよ」
「甘い匂いだ」
どうやら喜んで貰えているようだ。
「もう、そんなにたくさん聞き取れませんよ」
エリザは満面の笑みを浮かべ、体の上に散らばる小さな街をそっと撫でる。指の下になった街は瞬時にして地下深く沈み、空も闇に包まれた。


しばらくすると住民からの声が変化し始める。一つはミルクの量に対する驚きで、飲み終えた上に当面の分を汲み上げてもミルクは減る気配さえ見せない。これ以上はチーズにするか、油を取り出すか、畑に撒くか、などあれこれ用途が話し合われている。

そしてもう一つは、彼らが見る景色への感想だ。とにかく大きいというのは共通しているが、それ以外は町のある部位によって表現が大きく異なるため一人一人の声を聞き取れない。
「もう、落ち着いてください」
エリザは笑いながら嗜め、部位毎に様子を聞いてみた。

胸の中心は標高が最も高く、展望も良い区域である。注意深く伺うエリザの表情から爪先に至るまで延々と続くエリザ大陸の絶景を頂上から見渡せるのだそうだ。その周辺は若干平坦で、彼等から見れば中心の突起でさえ山と言って差し支えないほどの堂々たる姿らしい。

更にその周辺、胸の斜面にも街は点在している。斜めになっていても重力の方向は変わらないため、住民からは水平線が仰角を伴っている。そのため地上やエリザの様子が良く見えるものの、視覚と重力のずれに酔う者も何人かいるのだという。

腹や裾にある街からは、エリザの体躯が作る地形への感想が返ってくる。山と呼ぶには大きく異形な双峰を始め、肋から腹にかけての起伏、臍の凹みや腰から太股にかけての膨らみまで柔らかくも雄大な光景なのだという。

そんな感想が来る中、一人が遠慮がちに話し掛ける。
「もしかして、海っていうのも、こんな感じなの?」
不意打ちのような素朴な問いに、エリザはつい破顔してしまう。
「ち、違いますよー」
砂漠の民にとっては、広大な水場など未体験なのだろう。そう思いながら回答するエリザだったが、住民の反応は違った。
「いや、まあこんな感じかな」
「海ってのも、これくらい広いんだぜ」
海を見たことのある住民が説明するのは良いのだが、何ともひどい言われようである。
「ちょ、ちょっと待って下さい」
おもわずエリザは口を挟む。
「そんなに、海みたいに見えるんですか?」
尋ねると、笑い声混じりの返答が幾つも来る。
「間違いなく海だよ」
「こんな広いの、海じゃなかったら何だって言うんだい」
当然と言わんばかりの内容に、エリザは自分一人だけが間違っているのではないかと不安になってしまう。
「いや、でも水は青くありませんし、潮の香りとも違いますし……」
「細かいことじゃないか」
広さの前には同じと言わんばかりにあっさり否定されてしまい、エリザは反論できなかった。


その後も腹一杯のミルクに満足して休む者や白い海で泳ぐ者、更にミルクを汲み出していろいろ加工する者など、銘々にくつろぐ住民に対してエリザは手を出さず、優しく見守っていた。

人が溺れかけた時は指を出して助けようとしたものの、断崖絶壁の無人島を近づけて「捕まって下さい」と言っても悪い冗談にしか聞こえない。結局溺れている人に風霊の加護を加え、空気を送りこんで救助した。

そんな感じに概ね平穏といえる状況は、もう一人の巨大看護婦によって破られる。
「こんにちはー。あら、また大きくなっちゃったの?」
突然現れたセシリアは左胸の頂点に降り立ち、いきなり質問を投げる。
「え、大きく……?」
エリザの狼狽も構わず、起伏に富んだ海原に点々と浮かぶ街を見渡し、一人納得したように頷く。
「あー、大陸中の街を集めたのね。やるじゃない」
足下の街を見下ろして語りかける。
「どうだった? このお姉さん、良くしてくれた?」
「うん!」
「助けて貰ったんだよ」
「しばらくミルクは要らないな」
「ほんと大きいよね」
「ふふふ、良かったじゃない」
元気に答える住民たちに、セシリアも満足そうだ。

話が進んでいるなか、エリザだけが置いてけぼりになっている。まず、大きくなっているというのは本当だろうか。確かに今のセシリアは前より小さく、半分から三分の一くらいだが……
「ざっと五十万倍ってところね」
エリザの混乱を察したセシリアが、早口で説明する。
「だから此処も五キロくらいね。街が余裕で乗ってるわよ」
セシリアが立っているのは胸の頂上の、もう一段盛り上がった箇所だ。そこだけ取っても山と呼べるほどの隆起を、セシリアは靴の爪先を捩って刺激する。
「やっ、やめて……」
エリザは顔を紅潮させ掠れ声で懇願するが、セシリアは意に介する様子もない。
「いいじゃない。もう一回出して、新鮮なミルクを飲んで貰えば」
「そんな……」
靴のヒールで地面を軽く蹴ると、エリザという大地が一斉に揺さぶられる。補助器と周期の長さゆえに街への影響は無いが、セシリアは体勢を崩し、尻餅をついてしまった。
「あっ!」
桜色の大地は、今度は上下に揺さぶられた。


セシリアはもう少し大きくなって頂上の隆起に腰掛け、元々その場所にあった街を膝の上に乗せる。そして今までの経緯を簡単に説明する。

予想通り、この惑星に侵略者を追い払うだけの力は無かった。現場の軍隊も納得した上で国の上層部に掛け合い、国の首長も他の主要各国に合意を持ちかけているとのこと。
「ただ絵や動画を伝える技術が無いから、伝聞なのよね。どこまで伝わるやら」
セシリアの懸念に、エリザも小さく頷く。感度を下げているので、前ほど敏感に反応せずに済むようだ。だが頷くだけでも大地は揺れ、セシリアは体を傾かせる。
「だ、大丈夫ですか?」
「あー、大丈夫大丈夫」
エリザの心配そうな問いに、セシリアは手をひらひら振って応える。
「もし他の国が何か言ってきたら、貴方も来る?」
「そうですね……折角なので、行ってみたいと思います」
単純に他の国にも行ってみたいという好奇心から出た返答だが、セシリアは別の意味に解釈したのか、悪戯っぽく微笑む。
「反対するとすれば、大きな国ね。思いっきり可愛がってあげましょう」


セシリアが予想した通り、大国の一つからの「実物を見るまでは保留」という返答が転送されてきた。
「私たちを見たいんでしょう。人気者は辛いわね」
嬉しさを隠し切れない様子で言いながら補助器を手際よく操作すると、エリザの上空に大きな画面が投影される。
  『街を戻します
  (はい/いいえ)』
エリザが腕を上げるより前に『はい』の部分が変色し、彼女の上に散らばっていた街が浮き始める。どうやら彼女の補助器をセシリアが操作できるようだ。
「ごめんね。勝手に弄らせて貰ったわ」
「あ、はい……」
特に咎める理由も無いが、突然の別れはちょっと名残惜しい。
「じゃあ、皆さんもお元気で」
エリザは精一杯の笑顔と共に、体に寄せた右掌を軽く振る。住民達もそれに応えるかのように、身を乗り出して大きく手を振っている。彼女から見やすくするためか、タオルや旗を振っている者も多い。
「本当に、好かれるのね」
セシリアも心底感心したように呟く。
「ま、好かれるのは良いことだわ」
すぐに一人で納得し、補助器を操作する。今度は大きさを戻して移動する旨の表示が出て、やはり自動的に『はい』の部分が変色する。

視界が暗転し、今度は摩天楼が建ち並ぶ大都市の真ん中だ。
「さ。お望み通り、来てあげたわ」
セシリアは早速腕を組み、やや顎をあげて見下ろす。
「好きなだけ見て頂戴」
蔑むような印象だけは与えないように注意しつつ、貫禄を見せつける。こちらの高層ビルは先の都市よりは高いものの、それでも身長千七百メートル以上のセシリアから見れば膝にも届かない。

だが市民の視線はセシリアではなく、彼女をも圧倒する桜色の山脈ーーエリザのアンクルブーツに向けられていた。爪先までは距離があるため靴の全貌を見ることが出来るものの、間近の町から見れば世界を隔てるかのように左右上下へ伸びる一面の白壁であり、アーチ部分でさえ小さな町村を幾つも跨いでいる。人工的な曲線を湛えつつも、建造物というには余りにも大きすぎる。
「なーんか、さあ」
いかにも不満そうに、セシリアは上に向かって言う。
「まるで私が、あなたの威を借ってるみたいじゃないの」
「いや、でも……」
私を連れてきたのは貴方でしょう。そう言い掛けたエリザだったが、彼女の不満を考えれば口に出すのも不毛な気がしたので代わりに頭を下げる。
「ごめんなさい」
「あ、いや……いいのよ、謝らなくても」
セシリアの方も毒気を抜かれ、畏まってしまう。
「私こそごめんね、八つ当たりしちゃって」
「いえ、良いんです」
巨人と超巨人が謝りあう奇妙な光景を呆然と見上げる住民に対し、不意に小さい方の巨大看護婦が振り返って問う。
「で、どうしましょうか?」
質問の意味を取れず反応できない相手に、セシリアは畳みかける。
「私たちの保護を受けるかどうか、という話よ。もう一回戦ってあげても良いけど、待った分は楽しませて貰わないとね」
意味深な口調で言いつつ、セシリアは片足を上げて手近な摩天楼に爪先をおろす。スカートの中が見えるのもお構いなしだ。
「楽しむって、何をされたんですか……」
呆れたようにエリザが突っ込む。セシリアの性格からして、何を楽しむつもりなのかは想像が付いてしまう。
「何って、男と女がする事なんて決まってるじゃない」
後ろを振り返ったセシリアは、両掌を頬に当てて恥ずかしそうに応える。いかにもわざとらしい仕草に、エリザだけでなく住民からも溜息が漏れた。だが彼女は意に介することもなく、エリザに持ちかける。
「あなたもどう? 皆の必死さが伝わってきて、とっても気持ちいいのよ」
「遠慮します」
もちろん即答である。付き合わされた軍隊にとっては、さぞや災難だっただろう。エリザは彼等に同情を禁じ得なかった。


軍隊を配備するほどの時間も無いので、現時点で配備されている武装警察が代わりに試験するという折衷案が出された。
「あら、もう来てたのね。お疲れさま」
セシリアは軽く言ってしゃがむ。正面にそれらしき黒服の一群を見つけると、右の人差し指をおろす。彼らにとっては直径十メートル以上、長さも六~七十メートルはある中層ビル並の白柱であり、前触れもなく降下するため、流石の武装警察も怯んでしまう。
「さ、好きなだけ撃って頂戴。お姉さん怒らないから」
相手の心境を知ってか知らずか、セシリアはあくまでもマイペースだ。
「でも外したら怒るかも。特に後ろのお姉さんは怖いのよー」
「何で私なんですか」
不意に話を振られ、エリザは低い声を返す。
「だいたい、いま治療中です。怪我なんてさせません」
大気圏を越えて聳えるエリザに驚き、事故を起こす者も多少ながら居るため祈りを捧げていたところだった。彼女の想いは遙か彼方まで届き、痛みを感じる前に癒されているのは不幸中の幸いと言えよう。
「それは、ようござんした」
あくまでも真面目なエリザに、セシリアはわざとらしくおどけて見せた。


武装警察官たち自身も予想していたとおり、ハンドガンが効く気配は全く無かった。セシリアは表情一つ変えておらず、撃たれていることに気付いているかどうかさえ怪しい。
「音で分かるわよ。大丈夫」
彼等の疑問に気付いているのか、いないのか。的確というには微妙なフォローである。

結局、手持ちの銃弾がほぼ尽きたところで隊長から終了の合図が出て、試験は終了となる。その様子は上層部にも伝えられ、保護やむなしとの結論が出るまでには十分と掛からなかった。

保護の承認が確定すれば、あとは実行に移すのみだ。
「じゃあ、そろそろ仕上げに行くわよ」
セシリアはそう言って補助器を操作する。彼女とエリザの前にサイズ変更の表示が出たかと思うと、二人は再び十億倍の大きさとなって漆黒の中に浮かんでいた。二人の間には、胡桃大の青い惑星が頼りなく漂っている。
「はい。改めてこんにちは!」
セシリアが惑星に微笑み、元気よく声を出す。星を挟んで反対側にいるエリザも暖かい目線で星から来る感情に心を傾ける。
「もう、怯えていませんね」
惑星を遙かに凌駕する超巨大看護婦に前後を挟まれ、地上のどこからでも空一杯に二人の姿が見えるにも関わらず、住民はその景色を日常として受け止めているようだった。
「というか、最初から怯えてなんか居ませんでしたよね」
最初のやりとりを思い出し、エリザは感慨深そうに呟く。それは住民も同様で、滅亡に瀕していた彼等にとっては救世主に他ならなかったことを思い出す。
「助けることができて、本当に良かった」
安堵するエリザの表情からも、彼等を心から案じる様子が見て取れる。救世主は衣を代え、今や『白衣の女神』と呼べるだろうか。
「あらあら。私たちは女神じゃないのよ。ただの大きな女の子」
住民の高まる思いに、セシリアが諭すように口を挟む。意外な否定かと思いきや、エリザもまた同意するかのように頷いている。
「寂しくて人恋しい時もあるし、楽しさについ流されちゃうこともあるし」
「流されすぎだと思います」
エリザが口を尖らせて突っ込む。楽しみに散々付き合わされた彼女にしてみれば、やっと果たせた反撃というところだろう。だがセシリアは舌を小さくぺろっと出して、
「えへへ」
と返すのみだ。
「あとね、なかなか割り切れないの。手を貸さない方が良いって解ってても、つい助けちゃうのよねー」
口調こそおどけているが、その台詞にはセシリアの長い苦労が滲んでいる。直感的にエリザは察していた。


セシリアは再び惑星に視線を戻し、住民に対して宣言する。
「じゃあ、私があなた達を運ぶわね」
そして胸元のボタンを外し始める。豊満な体を押さえつけていた生地が左右に開かれ、下からはハーフカップのブラジャーに包まれた双丘が姿を現す。惑星を簡単に飲み込めるサイズの堂々たる谷間を前に、住民のどよめきが一気に大きくなった。
「な、何をしているんですか?」
エリザも慌てて問うが、
「何をって……運ぶんじゃないの」
セシリアは何が疑問か分からないと言わんばかりの口調で平然と応え、面倒臭そうに説明する。それによれば、瞬間移動に他人を巻き込むときは密閉保護が必要とのこと。
「密閉できるところって言ったら、やっぱり、ね?」
胸を両手で掴み、谷間を広げてみせる。この膨大な肉壁に飲み込まれれば、確かに一分の隙も無いだろう。
「あとは口とか」
頬を指を当て、軽く口を開けて見せる。彼女にとって惑星は大きめの飴玉でしかなく、住民から見た口内の暗黒は惑星を余裕で飲み込める大きさだ。きれいに並ぶ前歯一つだけでも大陸分くらいはありそうだ。
「いや、それはちょっと……」
何も言えない住民に代わって、エリザが抗議する。頬に含まれ、舌に弄ばれる惑星を思うと賛同できるはずもない。
「うーん、じゃあこっちの口が良いかな?」
気にすることなくセシリアは内股に掌を沿わせ、ミニスカートの裾をそっと上げる。流石にこちらの『口』を見せる真似はしないが、何を意味しているかは一目瞭然だ。
「私は、良いのよ」
明るく言い切るセシリアの微笑みは、なんだかいつもより艶っぽい。冗談を装ってはいるが、微妙に本気なのではないか……

住民の逡巡を察したエリザが、遠慮がちに口を開く。
「あのー」
「なぁに? あなたも入れてみたいの?」
「違います」
セシリアの邪推をぴしゃりと撥ねのけ、エリザは帰還を申し出る。
「私もそろそろ、お暇しようかと思いまして」
「えー!」
セシリアは予想外と言わんばかりの反応を見せる。
「それは勿体ないわ。あなたほどの逸材は、なかなか居ないもの」
惑星看護婦として是非働いて欲しい、特に星の声を聞く能力を生かして探査業務に就いて欲しいのだという。
「一つでも多くの星を見つけて、護ってあげたいの」
セシリアの説得も熱を帯びてくる。遊び好きではあるものの肝心なところでは真剣だと解っているので、エリザも無下には断れない。さらには惑星からも「助けて欲しい」との声が寄せられる。自分たちのように絶望に瀕し、また侵略者に抗えない者達が居るとなれば、やはり他人事ではないのだろう。
「うーん、そうですね」
エリザはゆっくり頷く。彼等の言っていることは非の打ち所もないほど正しく、彼女としても助けられる命を放置する道理はない。こちらの世界で過ごした時間も元の世界には影響しないのだから不利益もない。
「わかりました。こちらでしばらく頑張ります」
力強く宣言し、セシリアに頭を下げる。
「というわけで、よろしくお願いします」
「いえいえ、こちらこそ。ありがとう!」
セシリアも軽く頭を下げ、エリザに抱きつく。二人の間に挟まれた惑星からも歓声と悲鳴があがった。
「ちょっ、星が当たって……」
エリザの抗議も意に介さず、惑星は二人に包まれてしまった。


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